最愛の人を突然亡くした時、あなたならばどうしますか?
オーストラリアで交通事故により死亡した夫の精子を使って人工授精し、健康な赤ちゃんを身ごもったとして話題になっています。
亡くなった最愛の人の子供が欲しい
オーストラリア南部、アデレードに住むある女性の夫が交通事故により不慮の死を遂げてしまいました。
愛する人を失った彼女の悲しみは想像を絶する深さだったに違いありません。
「せめて、彼の子供だけでも傍にいて欲しい」
そう願うのも不思議なことではありません。
その想いを叶えるべく、彼女は死んだ夫から精子を取り出し「死後生殖」を望んだのでした。
強い願いと法律の壁
しかし、死後生殖については大きな問題がありました。
南オーストラリア州の法律では以下のように定められていたのです。
死ぬ前に精子を保存する→死後生殖可能
亡くなってから精子を取り出す→死後生殖が認められない
つまり、今回の女性のケースでは人工授精することは認められていなかったのです。
しかし、どうしても愛する人の子供を宿したい、その願いが強い彼女。
裁判所に申し出て許可を得ようと努力したのでした。
最長記録を大幅にオーバーする48時間
本来、法的に認められていない死後生殖。
しかし女性の夫への愛、子供を身ごもりたいという気持ちは通じたのです。
裁判所では以下のような理由から例外的な死後生殖を認めたそうです。
「夫の生前に夫婦間で子供を作ることが計画されていた」
しかし、アデレードでは法的に認めらることではなく、キャンベラまで移動して手術をしなくてはいけませんでした。
法的な手続きと手術、実際に精子を取り出して人工授精するまでに丸2日かかってしまったのです。
「死亡して時間が経ってから抽出した精子はDNAの損傷が考えられる」
担当した医師はそう助言したそうです。
これまでの同様のケースでは、最長で30時間。
今回のケースではすでに48時間…18時間もオーバーしているのです。
強い勇気と愛の物語
「それでも、私はやらなくてはいけない」そうした強い信念の元、女性は死後生殖を実行しました。
そして見事…夫の子供をその身に宿すことに成功したのです。

不妊治療の専門家スティーブ・ロブソンはこう言います。
「これまでの視点から言えば信じられない出来事です。しかし、彼女は強い勇気をもって実行し妊娠に成功した。これは愛の物語です。」
倫理的な問題について
今回の死後生殖についてはオーストラリアでも様々な意見が出されているようです。
南オーストラリア州の保守党グループは今回の裁判所の決定に対して抗議をしています。
また、倫理に詳しい専門家や評論家の中にも「非倫理的行為である」という声があがっているようです。
「子供の利益よりも大人の願いを満たすための行為であったのではないだろうか」
しかし、今回担当した婦人科医のケルトン教授はこう言います。
「生まれてくる子供が何らかのマイナスを受けた・受けるという主張を支持する証拠はない。実際に生まれてから精神的に苦痛を得るかどうか、それが重要です」
どんな形であれ、生命が宿ったことは素晴らしいこと。
産んだ後、成長してから父の死や生まれた経緯をどのように知り、どのように感じるか…それが重要であるということですね。
おわりに
最愛の夫を亡くし、ただ悲しみに暮れるだけではなく「子供が欲しい」として行動を起こした女性。
これまでの死後30時間という記録を18時間も延長してその身に宿った赤ちゃんはまさに愛の結晶ですね。
ちなみに、日本の法律では今回のようなケースは法的に難しくなります。
そもそもこのような状況は想定されておらず、基本的には認められないようです。
実際に、日本産婦人科学会では2007年に「死後生殖は禁止」と決定しているようです。
とはいえ、日本受精着床学会・倫理委員会では「凍結精子を用いた死後生殖」について
「求める声は皆無ではない」
ということを理解はしています。
今後、社会通念の動向を見定めて決めるべきとのことで、もしかしたら将来は何かしらの条件付きで認められるようになるかもしれませんね。
参照
「Healthy baby from sperm taken 48 hours after a man died」
「凍結精子を用いた死後生殖についての見解」(pdf)